『元の木阿弥(もとのもくあみ)』の由来は3つありますが、木阿弥というお坊さんが、戦国大名である筒井順昭の身代わりをしていたことから生まれた説が有力です。木阿弥がなぜ影武者となったのか気になりませんか?
この記事では、元の木阿弥の3つの由来や、「木阿弥」「筒井順昭」という人物についてお伝えします。
3つもあった元の木阿弥の由来
元の木阿弥の由来 その1(筒井順昭の影武者説)
1つ目は、木阿弥(もくあみ)という盲目のお坊さんが、筒井順昭(つついじゅんしょう)の影武者(替え玉)だったことです。
筒井順昭は大和国(奈良県)の大名です。順昭はとても優秀でやり手で、当時は筒井家の全盛期。家臣からも慕われていて、勢力をどんどん拡大していました。
運命とは時に残酷なものです。
仕事も上手くいき、子供も生まれ幸せ一杯という時に、順昭は病気になり、幼い息子(順慶・じゅんけい)を残して死ななければなりませんでした。
自分が死んだ事が世間に知れ渡れば、筒井家は攻められ滅ぼされてしまうかもしれない。
そう考えた順昭は、自分が死んだ後、息子が成人するまでは、木阿弥を自分の身代わりにしてこれまで同様の生活を続け、筒井家を守って欲しいと家臣に遺言を残します。
木阿弥は、筒井順昭と声、顔立ち、年齢などとても似ていたそうです。
順昭の死後、木阿弥は寝室にこもり順昭の代わりをしっかりと果たしたため、筒井家が攻められることはありませんでした。
身代わりとして城で生活していた間、木阿弥はとても贅沢な生活を送っていたんだとか。
しかし、息子の順慶が成人し跡を継ぐと筒井家も安泰、順昭の死も世間に公表され、木阿弥はお城にいる必要もなくなります。
木阿弥は贅沢な生活から、元のお坊さんの生活の戻ったことから『元の木阿弥』となりました。
元の木阿弥の由来 その2(妻と離縁したお坊さん説)
2つ目は、出家するために妻と離縁した木阿弥というお坊さんの話です。
昔、出家するために妻と離縁した木阿弥という名のお坊さんがいたのですが、長年は修行に励んでいたものの、歳をとると共に心身が弱り、妻の元へ戻ってしまったそうです。
やっぱり歳をとると、急に心細くなってしまうものなのでしょうね。それに加えて、奥様がとても頼りになる素敵な方だったのでしょう!
妻の元に戻った木阿弥は周囲から「長年修行したのに戻ってきては台無しだ」とバカにされてしまったのだとか。
元の家に木阿弥が戻ってきたことから『元の木阿弥』となりました。
元の木阿弥の由来 その3(下地の木が見えてしまったお椀説)
3つ目は、朱塗りのお椀の漆がはがれて下地の木が見えてしまい、元の漆を塗る前の木のお椀に戻ってしまった事です。
美しく色艶のあった朱塗りのお椀が、みすぼらしい姿に戻ってしまったことから『元の木阿弥』となりました。
3つの説の有力説は筒井順昭の影武者説
元の木阿弥の由来には3つの説がありますが、木阿弥が筒井順昭の影武者だった説が有力説です。
実際に木阿弥が身代わりとなった時に生活していた場所は、奈良県生駒市にある圓證寺というお寺で、現存しています。
木阿弥はお坊さんですが、琴のお師匠さんでもありました。
順昭が琴を木阿弥から教わっていたのかは定かではありませんが、順昭が病気で療養していたとき、木阿弥は度々順昭の元を訪れて琴を演奏し、病の苦しみを癒していたのだとか。
戦国大名が病気でもうすぐ死んでしまうくらい具合が悪い。そんな状況の時にお見舞いに訪れることを許されるくらいなので、木阿弥は信頼のおける素晴らしい人間性の持ち主だったのでしょうね。
木阿弥はお城から元の家に戻る時にたくさんのご褒美をもらっていますし、順昭の身代わりをしっかりと果たしピンチを救ってくれた、筒井家やその関係者にとってはスーパーマンです。
歴史上には他にも多くの影武者が存在しますが、故事成語となり現在に語り継がれているのはすごいこと!
悪い意味で使われる言葉なのは残念ではありますが・・・。
改めて、人の為、社会の為になることができるって大切なことだし、素晴らしいなと思いました。
木阿弥を影武者にし隠居した筒井順昭
筒井順昭はとても優秀で、家臣からも慕われるような人物でした。順昭が大和国を治めていた時は筒井家の全盛期だったと言われています。
自分の死が近いことを知った順昭が、筒井家を守るために家臣に影武者を立てることを遺言として伝えると、誰もが順昭の考えを涙を流して引き受けたのだとか。
順昭が亡くなったのが28歳、この時息子は2歳。順昭の弟を中心として、順慶が筒井家を継ぐまで皆で大和国を守っていたそうです。
兄弟で権力争いをすることもあった時代なのに、皆で協力して順昭の息子である順慶に跡を継がせたことからも、順昭が家臣から慕われるような、素晴らしい人だった事をうかがい知る事ができます。
病気が悪化すると、順昭は数名の家臣とともに比叡山に移り、ひっそりと余生を過ごしました。
病名ははっきりとはわかっていませんが、脳腫瘍と天然痘という説があります。
自分が亡くなった後のことをしっかりと考えるのはさすが。すごいなと思いました。
こんな時に使える!元の木阿弥の意味と使い方
元の木阿弥は、一度良くなったものが元の状態に戻るという意味です。
由来を知っていると、ちょっと複雑な気持ちにもなりますが、悪い状態になることではなく、前の状態に戻ること。
また、これまでの努力や頑張りが無駄になってしまう意味でも使われます。
例文 その1
ダイエットをして少し体重が減っていた時、旅先でついつい美味しいものを食べ過ぎてしまいリバウンドしてしまった。元の木阿弥だ
例文 その2
株で大儲けしたけど、暴落してしまい、元の木阿弥だ
例文 その3
イベントの準備をして後は開催を待つばかりだったが、イベントが中止になってしまい、元の木阿弥だ
元の木阿弥の類義語
類義語 その1 糠喜び
良い事があって喜んだが、あてが外れてがっくりするような一瞬の喜び。という意味です。
類義語 その2 結局
いろいろな経過を経て最終的に行き着くところ。最後に落ち着く状態を表しています。
類義語 その3 水の泡
はかなく消えやすい。努力や苦心がすべて無駄になることを意味しています。
類義語 その4 元の木椀
「元の木阿弥」と同じで、一度は良い状態になった人が、結局もとの状態に戻る、これまでの努力や頑張りが無駄になってしまうという意味です。
英語版!元の木阿弥
元の木阿弥を英語表記すると「The wheel comes full circle」となります。
これは直訳すると「車輪が一周する」。車輪が一周して元に戻るで、元の木阿弥と同じ意味です。
他にも元の木阿弥と同じ意味を表すのが「ending up right back where one started」「be right back where one started」が「スタートに戻る」という意味。
「 be back to square one」は比喩的に「スタートに戻る」という意味になるそうです。